最高なろくでなし人生。
バイトに復帰した。
体感的には一週間程の長い休暇をもらってしまって申し訳ない気持ちで一杯だった。
でも、驚く事に同僚全員が「そんな緊急事態に休むのは当然だし、身代わりくらい健康な奴にさせる」と言ってくれて、心配までしてもらってしまった。
体調管理をきちんとする事は常識だから苦言を呈されると思っていた。
でも「お前は障害者なんだし、最近季節の変わり目とか台風もあったし仕方ない」とフォローされてしまった。
控えめに言って最高な職場である。
内視鏡検査の結果や今の体調の話題から自然と「早死にしたいでござる」って話をしたら
「は? 健康で長生きしろよ。じゃなきゃPS10とかやれないんだぞ」
と返された。それで老後のゲーム生活の妄想話をして、最後に二人して
「老衰で死ぬ間際に思うんだよ。最高のゲーム人生だったなって」
ってハモった。正確には『最高のゲーム人生』の所でハモった。
初めて老いた自分を想像出来た瞬間だった。
未来どころか明日の生活すら自信なんて皆無で、隙あらば死ねるようにずっと準備をしていた。いわば死に待ちの日々である。
だから生きている未来を想像したことも無かった。こんな人間が生きていける隙間は無いとも思っていた。
それなのに容易に想像出来てしまった。
近所の子供やら若者から
「いっつもゲームやってるあそこのじーちゃん、ゲームの知識だけは凄いんだぜ。ほらあれも最新機種だろ?」
と、そんな風に言われている自分が。
就職も結婚もしていない。子供も孫もいない。ずっと独りの偏屈なじーさん。
だけど楽しそうにゲームをやってるって事は何故か近所の数人は知ってる。実は近所の子供にせがまれてポケモンの交換とかしてる。
それは大多数の大人からしたらろくでもない生き方だ。だけど、少なくとも今この瞬間その生涯を『最高のゲーム人生だった』と一緒に言ってくれる人間がいた。何ならハモった。ていうか『最高のゲーム人生』なんてワードでハモるか普通? 何だよゲーム人生って(笑)
相手は冗談半分なんだろうし、現実の人生がそんなに甘くはないと知っている。
何なら緑内障で全盲になるのも確定してるし既にswitchの体を動かす系のゲームは出来ない。杖ついて歩くレベルだし平衡感覚がお亡くなりになってるからな。
でもそれを承知の上で思ったんだ。
そうやって生きてもいいなら、老いて死ぬまで生きるのもいいなって。
夢を見るのは寝てる時だけにしろ。そんな事は百も承知だ。
33年間という人生の中で初めて「生きていくのも良い」と思えた。死に待ちじゃなくて、生きていくという選択肢。
それだけで、この人生は多分最高だったんだろうなって気分になれた。
これから寝て明日起きたら忘れていたとしても、こうして言ってやりたい。
こんな生き方をたった一人から認められた。それだけで最高じゃんね。